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 「ヤフオク!」に出品されているものを落札したことが何回もある。正確には覚えていないが、「Yahoo!オークション」と呼ばれていた時代から数えると、全部で30回くらい落札しているのではないかと思う。

 小さいトラブルはいくつかあったけれども、幸いなことに、落札したものが届かないとか、壊れていたとか、そういう被害に遭ったことは一度もない。(家電の類には手を出さないことにしてきたからかも知れない。)

 ただ、最近は、よほどの事情がないかぎり、ヤフオク!は使わないようにしている。(普通の古書なら、アマゾンのマーケットプレイスか「日本の古本屋」でまず探すことにしている。)落札しても、サッパリ楽しくないからである。

 ヤフオク!は、以前からトラブルが頻繁に起こることで有名ではあったけれども、この2、3年、出品者の側も入札者の側も、ともにリテラシーが低下してきたせいなのか、私には到底理解できないことが目につくようになった。

  私が落札してきたものの多くは古書である。古書の場合、商品のページを眺めていると、下の方に細かい注意事項が書かれているのが普通である。古書の場合、新しいものでも古いものでも、状態は必ずしもよくないのが普通だからである。

以前は、商品の値打ちがわかった上でのオークションだった。



 以前は、古書の場合、出品する側も入札する側も、ともに本の扱いに多少は慣れていることが当然の前提になっていた。つまり、以前は、「自宅の押し入れから出てきたものをそのまま出品している」というような断り書きがないかぎり、それぞれの本は、その本の「内容の値打ち」について当事者全員が漠然とわかっていることを前提として出品され、落札されていたと思う。

 だから、質問フォームから出品者に事前に連絡して、表紙や目次や奥付の写真を追加してもらったり、「汚れがある」という特記事項がある場合には、どこにあるのか具体的に教えてもらったりしたこともある。また、私のごく狭い経験の範囲では、素人の出品者からも、それなりの回答は必ずもらっていたように思う。質問フォームによるコミュニケーションが成り立っていたのであり、オークションの本質は、このようなコミュニケーションにあると私は信じている。

自分が出品した商品について何も知らない出品者が増えた。



 しかし、この数年、「質問は一切受け付けない」「神経質な人間は入札するな」という意味の注意事項が増えた。また、事前に質問しても回答がない――だから、入札できない――というケースにも何回か遭遇した。もちろん、それは、
  1. 商品に関する知識も愛着も出品者になく、質問に答えられないことが多くなるとともに、
  2. 古本に関する常識のようなものが通用しない入札者が増えた
からなのではないかと私は想像しているが、それにしても、これが私にとっては、あまり面白くないことだったのは事実である。質問することができなければ、入札の判断もできないことは確かである。

出品者からマスとして扱われるようになった。



 また、一人で途方もない数の商品を扱う出品者が多くなったのか、落札したあとに届くメッセージもきわめておざなりであることが少なくない。これも私には不快であった。そもそも、あくまでも個人が出品し、何人かの個人の入札者とコミュニケーションするというのがオークションの本来の姿である。したがって、出品者は、落札者をマスとして扱ってはならない。客をマスとして扱うくらいなら、古物商の免許を取得し、組合に加入して「日本の古本屋」で書籍を販売すべきであろう。

 古書に関するかぎり、この数年のあいだにヤフオク!が急激に堕落したのは、本に関する知識も愛着もないズブの素人が転売目的で入手した大量の古書を出品しているからなのかも知れない。もちろん、古書といっても、ISBNとバーコードがカバーに印刷されている程度の、せいぜい20年くらい前までのものである。(このタイプの素人は、本の内容が理解できないから、バーコードがないと手も足も出ない。)

 この問題については、あらためて考えてみる価値があるように思われる。