withdrawal

スマートフォンを手放して禁断症状が起きた

 私は、2011年春から2013年春まで2年間スマートフォンを使っていた。その後、2015年秋までの2年半、フィーチャーフォン(=「ガラパゴス携帯」)に戻し、2015年秋からふたたびスマートフォンを使い始めた。スマートフォンに戻ってかちょうど1年になる。

 以前にデジタル断食について書いたことに関連して、私の個人的な体験を記しておきたい。

24時間「デジタル断食」のすすめ 〈体験的雑談〉 : アド・ホックな倫理学

デジタル断食してみた 今年に入ってから、「デジタル断食」を何回か自宅で実行した。期間は、1回につき24時間であった。 デジタル断食またはデジタル・デトックス(digital detox) は、インターネット接続を完全に遮断した状態で時間を過ごすことを意味する。ネットによって


 2013年春、2年間の契約期間が終わりかけたとき、このままスマートフォンを使い続けるか、それとも、ここで使うのをやめるか、しばらく考え、そして、解約することに決めた。こま切れの時間ではあるとしても、スマートフォンを朝から晩まで繰り返し手に持っていじっており、その時間の合計がバカにならない量になっていたからである。このままでは依存症になるのではないかという危機感が私にはあった。ともかくも、スマートフォンとの縁を「物理的」な仕方で断ち切り、これが私の生活に本当に必要なものなのかどうか、「スマホのない生活」を送ることで検討してみようと考えた。これは、少なくとも当時の私にとっては、一大決心だった。

 しかし、スマートフォンを手放した直後から、禁断症状が始まった。

 それまでの2年間に、生活のいろいろなタイミングでスマートフォンの画面を眺めるのがルーチンになっていた。たとえば電車に乗り、座席に坐ったとき、職場に到着したとき、就寝の前など、天気やニュースやメッセージを反射的に確認していた。手が空くと、すぐにスマートフォンを見る癖がついていたのである。

 また、記録しておくべきことは、すべてEvernoteに入力していた。だから、買いもののメモもEvernoteであらかじめ作っておき、出先ではこれを見ながら用事を済ませていた。何かの不具合によってEvernoteが見られなくなったときには、どうしてよいかわからず、路上で途方に暮れたこともある。

 日常にこれだけ深く入り込んでいたスマートフォンと縁を切ったのであるから、禁断症状が起きるのは必然であった。いつもならスマートフォンを手に取るタイミングで肝心のスマートフォンがないと、しばらくのあいだ、他のことを何も考えられなくなる。また、Evernoteをメモ帳代わりに使うわけには行かなくなったから、外で必要になる情報はすべて、紙のメモ帳に書いておかなければならない。(パソコンからEvernoteに入力し、メールで送ることを試みたが、手間が煩わしく、続かなかった。)また、スマートフォンを使っていたあいだに、「ライフログ」などと称して何から何まで写真で記録する悪い癖がついてしまったらしく、外出先で何かを見かけると、すぐにカメラを向けてシャッターを切ろうとする。本当に記録するに値するものは何かを考え、最低限を紙のメモ帳で記録することができなくなっていたのである。

スマートフォンを使わないことによる解放感を味わう

 禁断症状は、解約してからおよそ2ヶ月続いた。最初のうちは、スマートフォンを持っていたらするはずのことが実行できず、イライラしたり、うわのそらになったりすることが多かったが、これが少しずつ減って行き、季節が変わるころには、禁断症状はほぼ収まった。生活のそれぞれのタイミングでスマートフォンを持っていたらしていたはずのことを思い出すことも少なくなって行った。2ヶ月かかって新しい行動のルーチンが出来上がり、スマートフォンを手放したことによって空いた穴が埋められたのである。

 もっとも気持ちがよかったのは、スマートフォンを解約してから2ヶ月経ったころには、「携帯電話を手に取ることが必要なタイミングなのかどうか」の見きわめができるようになり、手持ち無沙汰であるというだけの理由で何となく携帯電話をいじることがなくなった点である。自分の時間を自分でコントロールできるようになったことにより、私は、解放感を味わった。スマートフォンを経由してけじめなく流れ込んできた情報を自分でコントロールできるようなり、心の平穏が乱されることも少なくなった。

 当然、スマートフォンで絶えずつながっていなければ維持できないような人間関係も、スマートフォンと一緒に手放した。そのような人間関係は、自己支配を妨げる雑音にすぎないことに気づいたからである。これもまた、スマートフォンを使うのをやめた成果であった。(なお、私は、携帯電話の機種変更のたびに、連絡先を自動で移行させず、手で一つひとつ必要に応じてその都度入力し直すことにしている。機種変更から1年間経って新しい電話機に登録されなかった相手は、私にとって不要な存在であると判断することができるからである。)

スマートフォンをふたたび使い始めても、使用時間は増えなかった

 昨年の秋、2年半ぶりに機種変更し、スマートフォンをふたたび使い始めた。最初は、空いた時間にスマートフォンをいじり続けることになるのではないかと怖れていたが、幸いなことに、それから1年が経っても、「能動的に使用する」必要がある場合を除き、スマートフォンを手に取ることはなくなった。スマートフォンを手に持っている時間は、1日平均3分くらいではないかと思う。(このうち約2分は、電話として使っている時間である。)

 スマートフォンを手に取る必然性は何もないが、時間が空いているから何となくダラダラと画面を眺めている、スマートフォンを物理的に手放さなければ、このような時間を生活から追放するのは不可能であったに違いない。スマートフォンを一度は解約し、時間の遣い方を見つめなおすことは、生活の改善にきわめて有効であると私は考えている。スマートフォンに固有の機能を業務で使わなければならないのでなければ、スマートフォンを手放しても何ら不都合はないはずである。