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手帳やメモ帳は使わない

 スケジュールを記入する小さな冊子は、一般に「手帳」と呼ばれている。これは、社会において何らかの役割を担っている大人なら、当然、少なくとも1人に1冊は持っているべきもの、いや、持っているに決まっているものであると普通には考えられているようである。しかし、私は、社会においてささやかな位置を占めているけれども、手帳を本格的に使ったことがない。(職場で手帳を毎年支給されるが、受け取っていない。もらっても使わないからである。)

 ひとりの人間にとって手帳が必要となる程度は、その人間の生活の不規則の程度に比例すると言うことができる。毎日、毎週、毎月、毎年、判で押したようにまったく同じスケジュールで生活している者には、手帳など不要である。また、生活の外見がどれほど不規則であっても、スケジュールを自分で管理しなくてもよいのなら、やはり、手帳は不要である。たとえば、有名な芸能人や政治家のように、自分に代わって誰かがスケジュールを管理してくれる者は、手帳を持たないはずである。手帳にみずから記入すべきことが何もないからである。

 これに対し、同じスケジュールの日が2日とない者、毎日が不規則な予定の複雑な組み合わせからなる者、しかも、スケジュールを自分で管理しなければならない者にとり、手帳を欠かすことはできない。次に自分が何をすべきか、覚えていられないなら、何らかの仕方で記録しておく以外に道はないことは確かである。

 そして、私たちは一人ひとり、これら2つの極のあいだのどこかに位置を占めている。前者に近いなら、手帳の出番はほとんどないであろうし、反対に、後者に近い生活を送っているなら、手帳――あるいはネット上でのスケジュール管理――なしでは、生活が成り立たないに違いない。私自身が手帳を使わずに済んでいるのは、幸か不幸か、ワンパターンにかぎりなく近い生活を送っているからである。だから、自分の生活の規則正しさの程度を吟味し、手帳に書き込むことがそれほど多くないのであれば、手帳を使わずに済むかも知れない。

A6版1枚に1つの事項を書く

 私の場合、スケジュールの管理には、メモ用紙を使っている。普段のパターンから外れた予定が入るときだけ、これをメモにとることにしているのだが、用紙をわざわざ購入することはない。A4版の不要になった書類をペーパーナイフで4つに切ってA6版の紙を作り、裏面をメモ用紙として使うのである。A6版1枚には1つのことしか書かない。会議の予定をメモするときには、1回の(あるいは一続きの)会議の予定だけ、図書館で本を借りるときには、借りる本の情報だけ、ネット通販で何かを買うことを思いつき、しかし、今すぐには実行できないなら、商品の情報だけを書いておく。さらに、たとえば会議の予定がしばらく先であれば、大型の付箋に必要最低限の情報を書き込み、パソコンのモニターの縁に貼りつけておく。(1ヶ月以上先のスケジュールや定例のイベントの予定は、グーグルカレンダーに書き込む。)だから、私の手もとには、「手帳」も「メモ帳」もない。

 そもそも、手帳が必要となるのは、(1)現在よりもあとに実行されるはずのこと、しかも、(2)今すぐには実行することができないことを書きとめるためである。思いついて即座に実行可能なら、手帳に書くことはないであろうし、過去の予定をわざわざ手帳に書き込むこともないであろう。当然、完了した予定に関する情報をいつまでも手もとにとどめておく理由はないことになる。メモ用紙にスケジュールを記録する方式を私が気に入っているのは、(手帳やメモ帳とは異なり、)完了した予定が書かれた紙片を捨てられる点である。過去の予定を保存することが必要なら、あらためてA6版1枚に必要最低限のことを書いておけばよい。過去の予定を保存するのは、やはり将来の何らかの予定のためでしかありえないからである。