glenn-carstens-peters-190592

「ライフハック業界」(?)は無視すべし

 「TO-DOリスト」を作ることは、タスク管理の手段の1つ、しかも、もっとも原始的な手段の1つであると普通には考えられている。「なすべき」(to do)ことを紙に箇条書きにすること、そして、終わったら線でこれを消すこと、TO-DOリストの使い方はこれで尽きている。

 もちろん、この原始的なタスク管理は、なすべきことの単なる箇条書きでしかないから、それぞれの事項の優先順位も関連も記されてはいない。そこで、最近約50年のあいだに、タスクを上手に組織するとともに、これを確実に実行し消化することを標榜する多種多様な「仕事術」が姿を現した。もっとも有名なのは、デイヴィッド・アレンの”GTD” (= Get Things Done)である。

ストレスフリーの仕事術―仕事と人生をコントロールする52の法則

 このような仕事術はすべて、もっとも原始的なTO-DOリストを批判的に発展させることで生まれたものであり、「ライフハック」(lifehack) などと呼ばれている。私は、これらを「自己啓発書」「セルフヘルプ」に含めて理解している。

 そして、この「ライフハック業界」(?)が花盛りだからなのであろう、現在では、「仕事術」の提案自体を職業とすることすら可能になっているようである。実際、専業の「仕事術ライター」と呼ぶことのできる者たちは、日本にも外国にも見出すことができる。しかし、誰が考えてもすぐにわかるように、このような者たちが実践しているのは、「仕事術を産み出す」というきわめて特殊な仕事であり、この自己完結した自己言及的な試みが社会生活の質の向上に貢献するとは考えにくい。実際、これら「仕事術ライター」たちの提案する「仕事術」は、少なくとも私の目には、裨益するところの乏しいものと映る。

 そもそも、「仕事術」なるものは、一人ひとりがそれぞれの状況に応じて試行錯誤の中で手作りすべきものであり、他人から教えてもらうものではないはずなのだが……。「仕事術」「ライフハック」などの言葉が表紙に印刷された書物を何冊も読むことは、それ自体としてすでに、仕事に対する態度が根本的に転倒していることの証拠であるように思われるのである。

TO-DOリストを作ると効果的な状況の3つの条件

 私自身は、「仕事術」や「ライフハック」からは距離をとるころにしており、また、TO-DOリストも、できるかぎり作らないことにしている。

 私がTO-DOリストを作るのは、次の3つの条件をすべて満たす状況が出現したときである。すなわち、

        1. デッドラインまでの時間が非常に短く(長くても半日以内)
        2. デッドラインまでのあいだに完了させるべき「タスク」が非常に多く、
        3. さらに、「タスク」がすべて単純作業であり、順序を決めてこれらを一気に片づけることが必要であり可能でもある

場合、TO-DOリストを作ることは仕事の効率を向上させるのに有効であり必須であると私は考えている。

 当然、TO-DOリストにはメモ用紙を使う。


手帳を使わずメモ用紙で予定を管理する 〈体験的雑談〉 : アド・ホックな倫理学

手帳やメモ帳は使わない スケジュールを記入する小さな冊子は、一般に「手帳」と呼ばれている。これは、社会において何らかの役割を担っている大人なら、当然、少なくとも1人に1冊は持っているべきもの、いや、持っているに決まっているものであると普通には考えられている



 箇条書きになったタスクがすべて終わるとともに、紙を捨てることが可能であり、それとともに、完了した仕事を意識から追い出すこともできるからである。(「ライフハック」マニアが好む「週次レビュー」や「月次レビュー」など、もちろん、私はやらない。それは、マクドナルドで買ったハンバーガーの包み紙を保存しておき、定期的にこれを舐めてハンバーガーの味を無理に思い出すことをみずからに課すのと同じようなものであり、精神衛生上決して好ましくない作業だと思うからである。)

完了しないタスクがTO-DOリスト上に残ったら、「本当にやる必要があるのか」を自問してみる

 だから、私は、現在から数えて24時間以上経過しないと着手することができない事柄については、TO-DOリストは作らないことにしている。TO-DOリストに載せるのは、「すぐに済ませないと不都合が生じる」ことだけである。というのも、タスクを実行する日時が現在から遠くなるほど、そのタスクを実行するときの状況、その日時におけるタスクの優先順位がハッキリしなくなり、実行されないままTO-DOリスト上に残る危険が高くなるからである。完了しないタスクがTO-DOリストに残っていることは、気分的な負担にもなるはずである。

 だから、終わらないタスクがTO-DOリスト上に残ったら、そのリストは一旦捨て、現在の状況と優先順位を考慮しながらリストを作りなおすのがよい。(これもまた、TO-DOリストをメモ用紙で作らなければできない動作である。)タスクが終わらなかったのには、それなりの理由がある。1つのタスクを分割すれば問題が解決することがないわけではないが、それ以上に真面目に検討すべきなのは、それが本当にする必要があり、する価値のある仕事であったのかという点である。「面倒である」「煩わしい」などの理由で先送りされてきたタスクであるなら、やめてしまってもかまわないこと、あるいは、少なくとも、自分でする必要のないことである可能性がある。「やりたくないことで、やらなくてもかまわないことは、できるかぎりやらない」というのは、生活をシンプルにするための一般的な原則でもあるように思われるのである。