Port of San Diego's Top Green Chef Cook-off

料理本で料理を覚える

 私は、料理本を20冊くらい所蔵している。処分してしまったものも含めると、あわせて50冊近く購入しているはずである。これが多いのが少ないのか、私にはよくわからないが、男性としては多い方なのではないかと勝手に考えている。私が料理を自分で作るのは、外食があまり好きではないからである。しかも、自宅と職場が近く、外食する適当な場所が途中にない。外食するには、どこかにわざわざ出かけて行かなければならないことになる。

 私の母も祖母も、料理本を参考にして何かを作る習慣がなく、私は、子どものころ、家に料理本が置いてあるのを見たことがない。(だから、作り方を尋ねても、答えはつねに「見ていればわかる」以上のものではなかった。)そのせいで、大型書店の料理本のコーナーの前に初めて立ったとき、何を選び、また、これをどのように使えばよいのか、まったくわからなかった。実際、料理本を「使う」には、それなりの経験が必要である。特に、レシピを見て、作業の手順を心に浮かべたり、味を何となく予想することができるようになるには、ある程度は場数を踏まなければならないようである。

 料理の初心者なら、NHKの「きょうの料理」を参考にすることが多いのではないかと思う。少なくとも私はそうであった。動画による手順の解説が初心者にとってわかりやすいことは確かである。私は、初めて独り暮らしを始めたころには、「きょうの料理」をよく見ていた。ただ、今から振り返ると、「きょうの料理」で紹介されたレシピは、決して初心者向けではない。また、出演者が多様なせいか、「あたりはずれ」が大きく、レシピの数と比較すると参考になるものは少なかったように思われる。私の場合、「きょうの料理」で紹介されたレシピを2回以上試したことはなく、参考になったものはすべて料理本のレシピである。

男性の調理人のレシピの方がエレガント

 ところで、料理本遍歴(?)を続けているうちに、気づいたことが1つある。それは、レシピには「精度」や「作りやすさ」というものに関し、著者によって大きな差があるという事実である。数学の問題の解法について、「ベタ」で「応用のきかない」ものと「単純」で「問題の本質に即している」ものが区別されるように、料理本のレシピも、その場かぎりで雑然としたもの、あるいは、不必要に奇抜なものと、プリシンプルが明確で手順が簡潔――ラクという意味ではない――なものを区別することができる。作りやすく、味が安定し、ふたたび作ってみたくなるのは、もちろん後者である。そして、後者のレシピは、少なくとも私の知る範囲では、大半が男性の著者によるものである。料理本の著者としては、男性の方が全体として女性よりも優秀であると私は考えている。男性の著者のレシピと女性の著者のレシピのあいだには、明らかな違いが認められるのである。

 ただ、この違いは、性別によるものであるというよりも、むしろ、職業によるものであると考えるのが自然である。すなわち、女性の著者の大半が料理研究家であるのに対し、男性の著者の場合、ほぼ全員が調理人であり、飲食店に勤めていたり、飲食店の店主だったりする。そして、男性の著者の料理本に掲載されたレシピの方がエレガントである事実は、これによって説明することができる。というのも、料理研究家と調理人では、作ってきた「皿数」(?)がまったく違うからである。1つのレシピが料理本に掲載されるまでに実際に作られた同じ料理、あるいは似たような料理の数は、店で客に料理を出す調理人の方が比較にならないくらい多いはずである。外科医の手術の腕前がこなした手術の件数に比例するのと同じように、料理の腕もまた、これまで同じタイプの料理をどのくらい作ってきたかによって決まるところが多い。自宅のキッチンでの10回の試作から生まれた料理研究家のレシピよりも、対価を支払う客を相手に繰り返された1000回の試行錯誤を背景とする調理人のレシピの方が洗練されていることは明らかである。また、レシピに忠実であるかぎり、何十回も、何百回も繰り返し作られることに耐える味が不知不識に追求されているはずである。

 これまで多くの料理本を手に入れたけれども、手もとに残ったものの大半は、男性の著者によるものである。女性料理研究家の料理本に掲載されたレシピは、素材の点でも、手順の点でも、味の点でも、応用可能性の点でも、料理の「あるべき姿」から逸脱しているように感じられることが多い。(たとえば、男性の著者の場合には、「手抜き」が謳われていても、料理の体をなすための最低限の節度は守られているのが普通であるのに対し、女性の料理研究家のレシピの場合、「手抜き」であることが強調されているときには、本当に身も蓋もない極端な手抜きであり、出された料理を食べる側の気持ちを著者がどう考えているのか疑わしく感じられるようなものが少なくない。)

 残念ながら、家庭向けの料理本を製作する男性の調理人は、比較的少数にとどまっているが、男性の調理人による料理本が増えれば、家庭料理の啓蒙が進むのではないかとひそかに考えている。

 なお、次の本は、私が所蔵する料理本のうち、もっとも古いものである。まったくの初心者向けであり、非常にすぐれた本であると思う。

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