Washington DC

 11月にアメリカの大統領選挙が終わったころから、「偽ニュース」(fake news) という言葉を目にする機会が増えた。特に、いわゆる「ピザゲート」事件以降、広い範囲において偽ニュースに対する懸念が共有されるようになったように思われる。

偽ニュース、小児性愛、ヒラリー、銃撃...ピザゲートとは何か

 「偽ニュース」というのは、文字どおり偽のニュースである。英語版のウィキペディアの記事「偽ニュースサイト」(fake news website) によれば、偽ニュースの内容となるは、プロパガンダ(propaganda)、いたずら(hoax)、偽情報(disinformation) であり、虚偽を虚偽として掲載したりニュースのパロディを掲載したりする”news satire”――日本では虚構新聞がこれに当たる――とは異なり、「偽ニュースサイト」は、読者をミスリードし、欺き、そして、世論を誤った方向へと誘導する意図のもとに、ある情報が虚偽であるとわかっていながら、これを事実といつわって掲載するサイトである。

 実際、今回のアメリカ大統領選挙を始めとして、政治的な意思決定が偽ニュースによって阻碍されたり歪められたりするケースが散見するとウィキペディアには記されており、オーストラリア、オーストリア、ブラジル、カナダ、中国、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、フィリピン、イタリア、ミャンマー、ポーランド、スウェーデン、台湾、ウクライナ、アメリカ、イギリスなどの事例が紹介されている。(ただし、中国は、偽ニュースを口実にネット上の検閲を強化しただけである。)

 欧米諸国では、偽ニュースの拡散が「心理戦」であること、民主主義の脅威であること、ネット上の「荒らし」の一種であることは共通了解になっており、さらに、偽ニュースの主なものが、ロシア政府が関与する「偽ニュース通信社」(pseudo-news agencies) が民主主義に対する信頼を損ね、社会を分断させるために流布させていることがすでに明らかになっている。アメリカ政府は、アメリカの大統領選挙期間中に流布し、ソーシャルメディアによって拡散した偽ニュースはほぼすべて、ロシアから発信されたものであることをすでに確認したようである。

 このような事実を考慮するなら、偽ニュースが拡散している現在の状況は、すでに戦争状態にあると考えるのが自然である。そして、この戦争は、自由と民主主義を標的とするものであるから、私たちは、偽ニュース(=デマ)――「陰謀論」の形をとることが多い――に騙されることのないよう細心の注意を払ってニュースに接することが必要となる。

 たしかに、偽ニュースの中には、私たちの耳に快く響くものがあるかも知れない。しかし、偽ニュースが耳に快いのは、それが私たちの妬み、憎しみ、怒りを正当化し、増幅させるからであり、オープンな討議による合意の形成を促すからではない。偽ニュースサイトが目指しているのは、否定的な情動を煽ることにより、民主主義と平和と自由の破壊であり、かゆい湿疹で皮膚が覆われるとき、これを治療する薬が与えられるのではなく、反対に、傷つき、出血し、化膿し、ただれるまで皮膚を掻きむしり続けるよう煽られているようなものなのである。

 だから、複数の大手のメディアが伝えていないような情報、ソーシャルメディアに由来するような情報は、どれほど耳に心地よいものであるとしても、決してそのまま受け止めるべきではない。社会を分断する可能性のあるニュース、少数者に対する敵意を煽ったり、政府の陰謀の可能性を示唆したりするニュースには最大限の警戒を忘れてはならないと思う。

 残念ながら、平均的な日本人のメディアリテラシーは決して高度なものではない。そのため、日本共産党――「偽ニュースサイト」がそのまま政党化したような集団――やその周辺の団体の宣伝に簡単に騙される日本人は、いまだに少なくないように思われる。(そもそも、社会の混乱を目標とする偽ニュースの流布は、ロシア革命以来、共産主義政党の得意技でもある。)

 しかし、共産党に由来するすべての主張と情報は、「政権をとる可能性がなく、したがって、自分の公約について責任を取らされるおそれがない」ことを前提とする――政府に対する国民の信頼が傷つきさえすれば何を主張してもかまわないという――無責任なプロパガンダである。共産党に代表される左翼の主張が社会の分断を目標とする虚偽であると想定すること、選挙において左翼の候補者が語ることを間違いか嘘と見ななして警戒することは、新しいメディアリテラシーの獲得のための最初の一歩であるに違いない。

 以前に述べたように、日本人は、個人としての政治家が嘘をついても驚かないのに反し、政党には無邪気な信頼を寄せているように見える。


「真理にもとづかない政治」と民主主義の危機 : アド・ホックな倫理学

甲状腺がん、線量関連なし 福島医大、震災後4年間の有病率分析 「真理にもとづかない政治」とは、post-truth politicsの訳語である。日本では、イギリスで行われたEU離脱の国民投票の際、「事実にもとづかない民主主義」(post-factual democracy) という言葉が何回かマス



 日本人に政党を疑う習慣がないのは、平均的な日本人が「政党」という言葉を耳にして最初に連想するのが自民党だからであろう。たしかに、自民党には、党員全員が一致して嘘をつくことができるほどの結束力はない。しかし、現実には、1つの政党が結束して組織的に嘘をつくことは可能であり、実際、共産党は、これまで組織的に国民を騙そうとしてきた。幸いなことに、これまで共産党(を始めとする集団)に騙された日本人は、相対的に少数であった。しかし、現在の世界がすでに戦争状態にあるなら、私たち一人ひとりが毎日の生活において社会の健全性を損ねるような敵から身を(というよりも心を)護ることは避けて通ることの許さない課題であるに違いない。