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企業は、長期の契約による割引や「まとめる」ことによる割引を餌に顧客を囲い込もうとする

 携帯電話を長期で契約すると割引される。あるいは、携帯電話とケーブルテレビとインターネットをまとめると割引が受けられる。このような趣旨の案内を直接、あるいは、ダイレクトメールや電話で受け取ることが少なくない。

 「長期」や「まとめ」は、烈しい競争のもとで顧客を長期にわたって囲い込むための戦略である。だから、囲い込みは、規制が緩和され、新しい企業が市場に参入してくる可能性がある時期に試みられることが多い。

囲い込まれると「選択の自由」を制限される

 しかし、私は、これには基本的に応じないことにしている。

 今のところ、固定電話、携帯電話、インターネットのプロバイダー、ネット回線、ケーブルテレビ、NHK、電気、ガス……、私は、すべて個別に料金を支払っている。

 たしかに、このような支払い方では、割引は受けられない。また、大半が銀行口座からの引き落としになっているとはいえ、支払いはそれなりに面倒でもある。

 それでも、支払いに必要なカネと手間は「選択の自由」を確保するためのコストであると私は考えている。

途中で契約を解除しようとするとペナルティがある

 そもそも、たとえば携帯電話の回線の契約のように、2年間を単位とする場合、契約を解除することができる短い期間以外の時期に解約すると、違約金を請求される。

 もちろん、自分の意思で行った契約であるから、契約違反のペナルティを課せられるのは仕方がないことであるのかも知れないが、解約するにはつねにそれなりの――主観的な――不満があるのが普通であるから、違約金には釈然としないものがある。

契約を解除したあと、個別のサービスを契約しなおすのは面倒

 さらに、複数のサービスを「まとめる」ことで割引を受けていた場合、契約を解除すると、1つひとつのサービスを個別に契約し直さなければならない。これは、契約の解除を思いとどまらせる非常に大きな障碍になる。

 たとえば、私が住む杉並区では、J:COMがケーブルテレビのサービスを提供している。私も、ケーブルテレビについては、J:COMと契約している。

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 しかし、J:COMは、ケーブルテレビばかりではなく、光回線、インターネットプロバイダー、固定電話、携帯電話、電気、ガスのサービスを提供しており、すべてをJ:COMにまとめると、大幅な割引を受けることができる。そのため、J:COMから勧誘の電話がときどきかかってくるが、もちろん、私は、すべて無視している。

 そもそも、これらのサービスをすべてJ:COMにまとめてしまったら、J:COMに完全に囲い込まれ、「養分」となることを避けられない。というのも、解約することは、形式的には可能でも、現実にはほぼ不可能だからである。

 たとえば、光回線とインターネットプロバイダーについてJ:COMのサービスを解約したら、新たにどこかのプロバイダーと契約を結ぶとともに、NTTと光回線の契約を結び、さらに、公道から屋内まで回線を引く工事が必要となる。場合によっては、J:COMの回線を撤去する工事が行われ、その費用を請求されるかも知れない。電気やガスの契約を解除する場合もまた、事情は同じである。

 このような面倒をあえて引き受けても解約を実行するには、よほど重大な理由がなければならないように思われる。(同じように、販売店による引き留めが面倒であるという理由で新聞の購読をやめられない人は少なくないに違いない。)

多少割高であっても、また、支払先が分散しても、囲い込みには抵抗すべき

 だから、不満を覚えたら即座に解約し、競合する他社が提供するサービスの乗り換えることは、私たち消費者の権利に属する。

 ある会社のあるサービスに不満があるとき、「こちらの不満を解消するようサービスを改善しなければ、契約を解除して他社に乗り換える」と宣言する自由は、消費社会の健全な発展のための、そして、私たち自身の自尊心を維持するための必要条件であり、割引や手続きの簡略化と引き換えにこの自由を手放し、企業の養分になり下がることは、誰のためにもならないと私は考えている。