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スーパーマーケットには(当然のことながら)個性がある

 私の自宅から半径1キロの圏内には4軒のスーパーマーケットがある。当然、すべて異なる会社のスーパーマーケットである。普段、私は、この4軒のうち、自宅からもっとも近いところにある1軒で買いものしている。自宅の玄関を出てから店に辿りつくまでの所要時間がわずか3分であり、他と比べて断然近いからである。このスーパーマーケットが近所に開店して以来、日常的な食料品を調達するために他のスーパーマーケットに出かける機会はまずない。

 とはいえ、近所を散歩しているとき、いつもは使わないスーパーマーケットの前を通りかかり、店に入ってみることがある。そして、これは、いつも決まった店でしか買いものしない私のような無精な人間にとっては、非常に新鮮な体験である。

 私は、スーパーマーケット評論家ではないから、包括的な知識を持っているわけではないけれども、スーパーマーケットというのは、たがいに似ているようでありながら、細部に関してはたがいにかなり異なる。出入口、棚の位置や高さ、棚のあいだの通路の幅、価格の表示の方法、レジの仕組み、付帯的なサービスなど……。1つのスーパーマーケットに慣れていると、なじみのない店に初めて入ったとき、上手く適応できないことがあるに違いない。

買いものリストはどう作られているか

 ところで、よく知っているスーパーマーケットに出かけるとき、多くの人は、買うべきもののリストを用意し、これを参照しながら買いするはずである。何のリストも持たずに店に行き、食料品を買うことができるためには、すでに自宅の冷蔵庫などにあるものを正確に把握し、これを目の前に並ぶ食品と突き合わせながら――少なくとも1日分の――献立とその調理のプロセスを一挙に想起することができなければならない。

 しかし、私など、もう20年近く、ほぼ毎日自炊しているけれども、このような芸当ができるレベルには到達していない。何を買うかは、冷蔵庫の内容を確認しながら事前に決め、必ずあらかじめメモを作って出かける。なお、買うべきもののリストを作ってくれる多種多様なアプリがあるようであるが、私は、文明の利器は使わず、A6版のメモ用紙で済ませることにしている。買いものが終わったら捨てられるからである。

 なじみのあるスーパーマーケットの場合、誰でも、店内を回遊するルートがほぼ決まっているに違いない。つまり、いつも必要とする商品を無駄なくピックアップできるような最短の「順路」が心の中で何となく出来上がっているはずである。

 したがって、リストを作るときには、この「順路」と、「順路」を実際に歩いたときに前を通過するはずの棚とそこに並ぶ商品を心に浮かべながら、ピックアップする順番に商品の名前と数量を書き出して行く。(買いものリストを作りながら、心の中で買いものをシミュレーションするわけである。)献立ごとにアイテムがグルーピングされたリストやアイウエオ順のリストが作られることはまずないように思われる。

 だから、一度に買うべきものの種類がよほど多くないかぎり、店を歩いているときにメモを参照することはなく、むしろ、メモを見るとするなら、レジで精算する前に、買い忘れたものがないか確認するためであるのが普通ではないかと思う。買いものリストは、店の棚の高さや通路の幅、天井の高さや照明を含む三次元空間全体に密着した形で作られるものであり、買いものに出かける店に慣れていることは、日常的な買いものにとって無視することのできない条件であることになる。

なじみのないスーパーマーケットで買いものが滞る理由

 理想の買い物リストというものが、なじみの店の空間との重ね合わせにおいて作られるものであるなら、なじみのないスーパーマーケットでの買いものが上手く行かない原因は、もはや明らかであろう。すなわち、なじみのない店の場合、買いものリストが上手く機能しないのである。

 スーパーマーケットのどの棚のどの高さにどのような商品が置かれているのか、初めて入る店ではわからない。だから、私たちは、店じゅうを右往左往しながら商品をピックアップすることを余儀なくされる。また、あるスーパーマーケットでは定番になっているものが、別のスーパーマーケットの棚には見当たらないことも珍しくはない。

 もうずいぶん前のことになるが、西日本のある街に住んでいたとき、引っ越してすぐ、近所にあるスーパーマーケットに出かけた。私が入ったのは、売り場面積の途方もなく広い店であり、商品の配置もまた、私が知っているのとはかなり違っていた。それは、東京出身の私にとっては、初めて入るイオンの系列の店であった。

 おそらくそのせいなのであろう、買いものリストに商品を適切に排列することができないばかりではなく、買うべき商品の記載漏れも少なくなかった。実際に店に足を運んでも、店の端から端まで歩くのに3分くらいかかるから、買うべきものを忘れたことにレジの前で気づいても、これを取りに戻るのが面倒になってしまう。結局、商品のピックアップの手順を心の中でシミュレーションすることができるようにはならないまま、このスーパーマーケットでの買いものを諦め、別の、もっと小さな店を使うことにしたのを今でも覚えている。