warm happy feet

 私の自宅には、こたつもソファもない。今の自宅にないばかりではなく、これまでに住んだどの家にも、これら2つは最初からなかった。漫画『のだめカンタービレ』の登場人物の一人「千秋真一」の場合と同じである。(こたつとソファは、親類の家でも見たことがない。)こたつやソファがあればいいな、と思う状況がまったくないわけではないが、それでも、わざわざ買いたい気持ちになるほどではない。

 両方ともスペースをそれなりに占領するというのは、こたつともソファとも縁がなかった理由の1つではあるけれども、それ以上に重要なのは、次の点である。すなわち、こたつとソファのある生活というのは、何か自堕落な印象を与えるような気がしてならないのである。(もちろん、これは私の個人的な好みの問題であり、「こたつを買うな」「ソファを使うな」などと言いたいわけではない。)

 こたつとソファが自堕落な印象を与える理由は明らかである。椅子が上半身を垂直に維持する家具であり、ベッドが上半身を水平にして休息させる家具であるとするなら、こたつとベッドは、これら2つの極の中間に位置を占める。こたつに入っているときには、あるいは、ソファに身を沈めているときには、坐ったり、寝そべったり、どちらともつかない姿勢をとったりすることが可能である。

 身体を縦にするでもなく、横にするでもなく、しかも、望むならそのまま居眠りすることもできるような体勢を可能にする家具が身近にあると、怠け者の私は、時間の許すかぎりずっとソファに寝そべり、こたつにもぐり込んだまま時間を過ごすことになり、その結果、生産性と活動意欲がいちじるしく低下することになりかねない。身体を完全に横にして寝るか、身体を完全に縦にして起きているか、白黒をハッキリさせ、その中間――つまり「くつろぐ」姿勢をとること――を許さない厳しい環境を作り出すことで、生活の規律をかろうじて維持しているわけである。

 こたつとソファを追放すれば、空いたスペースが増え、生活に(必要かどうかはわからないが)一種の緊張感が生れることは確かである。また、ことによると、子どもがスマートフォンをいじる時間が短縮され、その分、屋外での活動や勉強の時間が増えるかも知れない。また、テレビをダラダラと見続けることも少なくなるはずである。

 ただ、冬の寒い日には、私でも、こたつがうらやましく感じられることがないわけではない。そのようなときにはどうするか。猛烈に辛いものを食べて汗をかいてから、布団にもぐり込んで寝てしまうことにしている。