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 昨日、次の記事を見つけた。

【電車マナー】優先席めぐりお年寄りと座った男性が口論 動画が投稿され議論沸騰

 記事によれば、電車に設けられている優先席に坐っていた男性が、前に立っていた老人から席を譲るよう求められ、これを拒絶した様子が動画に記録され、アップロードされ、これが多種多様な反応を惹き起こしているようである。

 ただ、この出来事に何か複雑な内容が含まれているわけではない。

 記事が正しいとするなら、席を譲るよう求めた老人は威圧的であり、これに対し、老人の要求を拒否する男性は乱暴であった。だから、老人の態度がもう少し柔らかければ、男性は席を譲ったかも知れないが、これは、問題の本質ではない。

 まず、ガラス窓に貼られたステッカーによれば、優先席には、

    • 老人
    • 障碍者または怪我人/病人
    • 妊娠した女性
    • 乳幼児を連れた女性

の4種類の乗客が優先的に着席することになっている。しかし、それぞれの鉄道の運行会社が定める約款にこの優先席なるものについての記述があるわけではなく、あくまでも譲り合いが特に「望ましい」席であるという以上の位置は与えられていない。同じように、4種類の乗客の「着席の権利」が約款に明記されているわけでもない。すなわち、純粋に形式的に考えるなら、「すでに着席している他の誰かを立たせる」権利など誰にもないことになる。

 このような点を前提とることにより、次のような帰結が導き出される。

    1. 優先席には誰が坐っていてもかまわない。(=優先席を含むすべての座席を占有する権利は、原則として先着順による。)
    2. 上記4種類の乗客には、優先席に着席する権利があるわけではない。
    3. 上記4種類の乗客(=交通弱者?)は、すでに優先席を占有している乗客が「自発的に」席を空けることにより着席する機会を得る。

 上記4種類の乗客が優先席に坐ることができるかどうかは、すでに優先席を占有していた乗客が席を譲ることの意義を承認しているかどうかによる。すなわち、優先席は、上記4種類の乗客のための座席ではない。それは、上記4種類の乗客にいつでも席を譲る用意のある乗客のための座席なのである。つまり、老人を始めとする4種類の乗客が目の前に現れたときに、ためらいなく席を立つことができる人間は優先席に坐り、席を譲りたくない、あるいは、何らかの事情で席を譲ることができないのなら、普通の座席に坐ればよい。運行会社がこのように誘導すれば、今回のような問題はある程度まで回避することができるであろう。