Robbery

 何日か前、次のような記事を見つけた。

74歳女性が強盗撃退、ピストルを突き付け返す 米

 幸いなことに、私自身は、自宅で強盗に襲われた経験がない。だから、私が気をつけることと言えば、戸締りくらいしかない。強盗が来たときの対処法を普段から検討しているわけでもない。ただ、上の記事で紹介されているように、たしかに、銃を持って侵入してきた強盗を銃で迎え撃つのは、海外ではごく普通のことであるのかも知れない。去年の秋には、スウェーデンで次のような出来事があった。

【海外こぼれ話】マジ切れの店主怖い!...トイレに逃げ込んだ窃盗犯、警察到着に「感謝」

 侵入者の方が怯えてしまうとしても、もちろん、侵入した方が悪いのだから、「過剰反応」として非難されるいわれはないであろう。

 しかし、銃火器を含む暴力によらなければ強盗を撃退できないわけではないのかも知れない。たとえば、次の記事は、自分が働く売店に侵入してきた強盗に対し、紅茶を飲んでいるから終わるまで待つように言い、やがてナイフを取り出して強盗を追い払ったイギリス人の女性を紹介している。

英国のある店主の女性、「紅茶を飲んでいるから忙しい」と強盗を待たせる - AOLニュース

 また、次の記事では、店に侵入した強盗を単純に無視することで撃退したニュージーランドの例が紹介されている。

ケバブ屋に強盗が入るも、ガン無視されてすごすご帰る事案が発生 ニュージーランドで

 相手が設定した(無視を含む)コミュニケーションの土俵に乗ってしまうと、強盗の方も、身動きがとれなくなるのであろう。

 とはいえ、やはり、日本人としては、次の撃退法を忘れてはならない。

 これは、今から5年前、2012年7月4日の名古屋市での強盗未遂事件に関する毎日新聞(7月5日付、中部版朝刊23面)の記事である。

強盗未遂:女性宅に覆面男 「はあ?」で撃退--名古屋・昭和区

 4日午後8時35分ごろ、名古屋市昭和区鶴羽町3のマンション2階に住む女性会社員(21)方で、玄関に侵入した男が簡易ライターに火をつけ、「金を出せ」と脅した。会社員が「はあ?」と聞き直したところ、男は何も取らず逃げた。愛知県警昭和署は強盗未遂事件として男の行方を追っている。

 同署によると、会社員は1人暮らし。室内でテレビを見ていた時に物音がしたため、振り向いたところ、男が玄関にいたという。玄関は鍵をかけていなかった。男は20代とみられ、身長170センチ前後。サングラスをかけ、水色のタオルで覆面していたという。【渡辺隆文】

 私は、強盗には一切同情しない。また、強盗に入ることは弁解の余地のない悪であると考えている。

 それでも、強盗に入り、住人に「カネを出せ」と言ったところ、「はあ?」という反応が戻ってきたため、そのまま退散した強盗の気持ちはよくわかる。自分が何かを誰かに語りかけ、これに対して「はあ?」(「あ」の部分が特に高くなる)という反応が戻ってきたら、非常に不快であり、また、ガッカリさせられるからである。血圧が一気に上がる人もいれば、意気阻喪して何もかもいやになる人もいるであろう。

 「はあ?」は、単純な無視以上に冷たいコミュニケーションの拒絶の意思表示であり、相手が提供するコミュニケーションの内容と枠組を一度に斥ける強力な手段である。どこかに侵入し、「はあ?」という反応に出会ったら、侵入者からは、言葉による脅迫という選択肢が奪われてしまうから、残されるのは、本格的な暴力に訴えるか、あるいは、そのまま黙って退散するか、2つの選択肢だけである。常識的に考えて、「簡易ライター」が威嚇の手段とはなりえない以上、もはや逃げ出す以外に道はなかったのであろう。

 「はあ?」というのは、きわめて否定的な作用をコミュニケーションに与える発言である。私自身は、一度も使ったことがないし、使うべきではないと考えているが、それだけに、危機的状況の下では思わぬ役割を担うことになるのかも知れない。(ただ、当然のことながら、すべての強盗が「はあ?」で撃退可能であるわけではない。この点には十分に注意し、戸締りを怠らないことが大切である。)