AD HOC MORALIST

人間らしい生き方をめぐるさまざまな問題を現実に密着した形で取り上げます。

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「ライフハック業界」(?)は無視すべし

 「TO-DOリスト」を作ることは、タスク管理の手段の1つ、しかも、もっとも原始的な手段の1つであると普通には考えられている。「なすべき」(to do)ことを紙に箇条書きにすること、そして、終わったら線でこれを消すこと、TO-DOリストの使い方はこれで尽きている。

 もちろん、この原始的なタスク管理は、なすべきことの単なる箇条書きでしかないから、それぞれの事項の優先順位も関連も記されてはいない。そこで、最近約50年のあいだに、タスクを上手に組織するとともに、これを確実に実行し消化することを標榜する多種多様な「仕事術」が姿を現した。もっとも有名なのは、デイヴィッド・アレンの”GTD” (= Get Things Done)である。

ストレスフリーの仕事術―仕事と人生をコントロールする52の法則

 このような仕事術はすべて、もっとも原始的なTO-DOリストを批判的に発展させることで生まれたものであり、「ライフハック」(lifehack) などと呼ばれている。私は、これらを「自己啓発書」「セルフヘルプ」に含めて理解している。

 そして、この「ライフハック業界」(?)が花盛りだからなのであろう、現在では、「仕事術」の提案自体を職業とすることすら可能になっているようである。実際、専業の「仕事術ライター」と呼ぶことのできる者たちは、日本にも外国にも見出すことができる。しかし、誰が考えてもすぐにわかるように、このような者たちが実践しているのは、「仕事術を産み出す」というきわめて特殊な仕事であり、この自己完結した自己言及的な試みが社会生活の質の向上に貢献するとは考えにくい。実際、これら「仕事術ライター」たちの提案する「仕事術」は、少なくとも私の目には、裨益するところの乏しいものと映る。

 そもそも、「仕事術」なるものは、一人ひとりがそれぞれの状況に応じて試行錯誤の中で手作りすべきものであり、他人から教えてもらうものではないはずなのだが……。「仕事術」「ライフハック」などの言葉が表紙に印刷された書物を何冊も読むことは、それ自体としてすでに、仕事に対する態度が根本的に転倒していることの証拠であるように思われるのである。

TO-DOリストを作ると効果的な状況の3つの条件

 私自身は、「仕事術」や「ライフハック」からは距離をとるころにしており、また、TO-DOリストも、できるかぎり作らないことにしている。

 私がTO-DOリストを作るのは、次の3つの条件をすべて満たす状況が出現したときである。すなわち、

        1. デッドラインまでの時間が非常に短く(長くても半日以内)
        2. デッドラインまでのあいだに完了させるべき「タスク」が非常に多く、
        3. さらに、「タスク」がすべて単純作業であり、順序を決めてこれらを一気に片づけることが必要であり可能でもある

場合、TO-DOリストを作ることは仕事の効率を向上させるのに有効であり必須であると私は考えている。

 当然、TO-DOリストにはメモ用紙を使う。


手帳を使わずメモ用紙で予定を管理する 〈体験的雑談〉 : アド・ホックな倫理学

手帳やメモ帳は使わない スケジュールを記入する小さな冊子は、一般に「手帳」と呼ばれている。これは、社会において何らかの役割を担っている大人なら、当然、少なくとも1人に1冊は持っているべきもの、いや、持っているに決まっているものであると普通には考えられている



 箇条書きになったタスクがすべて終わるとともに、紙を捨てることが可能であり、それとともに、完了した仕事を意識から追い出すこともできるからである。(「ライフハック」マニアが好む「週次レビュー」や「月次レビュー」など、もちろん、私はやらない。それは、マクドナルドで買ったハンバーガーの包み紙を保存しておき、定期的にこれを舐めてハンバーガーの味を無理に思い出すことをみずからに課すのと同じようなものであり、精神衛生上決して好ましくない作業だと思うからである。)

完了しないタスクがTO-DOリスト上に残ったら、「本当にやる必要があるのか」を自問してみる

 だから、私は、現在から数えて24時間以上経過しないと着手することができない事柄については、TO-DOリストは作らないことにしている。TO-DOリストに載せるのは、「すぐに済ませないと不都合が生じる」ことだけである。というのも、タスクを実行する日時が現在から遠くなるほど、そのタスクを実行するときの状況、その日時におけるタスクの優先順位がハッキリしなくなり、実行されないままTO-DOリスト上に残る危険が高くなるからである。完了しないタスクがTO-DOリストに残っていることは、気分的な負担にもなるはずである。

 だから、終わらないタスクがTO-DOリスト上に残ったら、そのリストは一旦捨て、現在の状況と優先順位を考慮しながらリストを作りなおすのがよい。(これもまた、TO-DOリストをメモ用紙で作らなければできない動作である。)タスクが終わらなかったのには、それなりの理由がある。1つのタスクを分割すれば問題が解決することがないわけではないが、それ以上に真面目に検討すべきなのは、それが本当にする必要があり、する価値のある仕事であったのかという点である。「面倒である」「煩わしい」などの理由で先送りされてきたタスクであるなら、やめてしまってもかまわないこと、あるいは、少なくとも、自分でする必要のないことである可能性がある。「やりたくないことで、やらなくてもかまわないことは、できるかぎりやらない」というのは、生活をシンプルにするための一般的な原則でもあるように思われるのである。


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手帳やメモ帳は使わない

 スケジュールを記入する小さな冊子は、一般に「手帳」と呼ばれている。これは、社会において何らかの役割を担っている大人なら、当然、少なくとも1人に1冊は持っているべきもの、いや、持っているに決まっているものであると普通には考えられているようである。しかし、私は、社会においてささやかな位置を占めているけれども、手帳を本格的に使ったことがない。(職場で手帳を毎年支給されるが、受け取っていない。もらっても使わないからである。)

 ひとりの人間にとって手帳が必要となる程度は、その人間の生活の不規則の程度に比例すると言うことができる。毎日、毎週、毎月、毎年、判で押したようにまったく同じスケジュールで生活している者には、手帳など不要である。また、生活の外見がどれほど不規則であっても、スケジュールを自分で管理しなくてもよいのなら、やはり、手帳は不要である。たとえば、有名な芸能人や政治家のように、自分に代わって誰かがスケジュールを管理してくれる者は、手帳を持たないはずである。手帳にみずから記入すべきことが何もないからである。

 これに対し、同じスケジュールの日が2日とない者、毎日が不規則な予定の複雑な組み合わせからなる者、しかも、スケジュールを自分で管理しなければならない者にとり、手帳を欠かすことはできない。次に自分が何をすべきか、覚えていられないなら、何らかの仕方で記録しておく以外に道はないことは確かである。

 そして、私たちは一人ひとり、これら2つの極のあいだのどこかに位置を占めている。前者に近いなら、手帳の出番はほとんどないであろうし、反対に、後者に近い生活を送っているなら、手帳――あるいはネット上でのスケジュール管理――なしでは、生活が成り立たないに違いない。私自身が手帳を使わずに済んでいるのは、幸か不幸か、ワンパターンにかぎりなく近い生活を送っているからである。だから、自分の生活の規則正しさの程度を吟味し、手帳に書き込むことがそれほど多くないのであれば、手帳を使わずに済むかも知れない。

A6版1枚に1つの事項を書く

 私の場合、スケジュールの管理には、メモ用紙を使っている。普段のパターンから外れた予定が入るときだけ、これをメモにとることにしているのだが、用紙をわざわざ購入することはない。A4版の不要になった書類をペーパーナイフで4つに切ってA6版の紙を作り、裏面をメモ用紙として使うのである。A6版1枚には1つのことしか書かない。会議の予定をメモするときには、1回の(あるいは一続きの)会議の予定だけ、図書館で本を借りるときには、借りる本の情報だけ、ネット通販で何かを買うことを思いつき、しかし、今すぐには実行できないなら、商品の情報だけを書いておく。さらに、たとえば会議の予定がしばらく先であれば、大型の付箋に必要最低限の情報を書き込み、パソコンのモニターの縁に貼りつけておく。(1ヶ月以上先のスケジュールや定例のイベントの予定は、グーグルカレンダーに書き込む。)だから、私の手もとには、「手帳」も「メモ帳」もない。

 そもそも、手帳が必要となるのは、(1)現在よりもあとに実行されるはずのこと、しかも、(2)今すぐには実行することができないことを書きとめるためである。思いついて即座に実行可能なら、手帳に書くことはないであろうし、過去の予定をわざわざ手帳に書き込むこともないであろう。当然、完了した予定に関する情報をいつまでも手もとにとどめておく理由はないことになる。メモ用紙にスケジュールを記録する方式を私が気に入っているのは、(手帳やメモ帳とは異なり、)完了した予定が書かれた紙片を捨てられる点である。過去の予定を保存することが必要なら、あらためてA6版1枚に必要最低限のことを書いておけばよい。過去の予定を保存するのは、やはり将来の何らかの予定のためでしかありえないからである。


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