depression

 秋、特に10月と11月は、私のもっとも嫌いな季節である。秋が嫌いな理由はいくつもあるけれども、そのもっとも大きなものの1つは、間違いなく健康診断である。

 私の場合、今のところ、BMIは標準であり、「メタボ」と見なされる恐れはない。また、酒ともタバコとも縁がない生活を送っている。血液検査の数値に深刻な異常が出たこともない。それでも、健康診断がたまらなく嫌であり、健康診断が終わるまで毎日、何度も健康診断のことを考え、そのたびに憂鬱になる。それなりに忙しい時期であるにもかかわらず、集中力と生産性は非常に低くなる。

 ネットで調べると、健康診断が嫌いであることを公言する人が少なくないことがわかる。しかし、その理由は必ずしも同じではない。バリウムを飲むのが嫌である(ただ、胃部X線検査は労働安全衛生法に定められた必須の項目ではなく、したがって、検査は拒否できる)とか、血液検査で針を刺されるのが嫌であるとか、色々な理由が記されている。健康診断がそれ自体として精神衛生上有害な影響を生活に与えているのである。

 私の場合、なぜ健康診断ごときでこれほど憂鬱になるのか。おそらく、場所の雰囲気に耐えられないからであると思う。よく知らない人たちと一緒に列を作り、特に何を話すわけでもなく、閉じた空間を何十分か回遊するのが嫌なのである。少なくとも私の職場では、よく知らない者たちが人口密度の高い同じ一つの空間を共有するという状況が出現することはない。(もちろん、会議のときには、会議室の人口密度は高くなるけれども、普通は、全員が顔見知りである。)検査する側の看護師や医師からは、「やる気」も人間味も感じられず、受診する側は、工場のベルトコンベアを流れてくるモノのように扱われる。今の職場では、尿検査のときの採尿には便所が使われるが、以前の職場では、健康診断が実施される部屋の中――つまり便所の外(!)――に便器が1つ設置され、そこで採尿することになっていた。

 私など、屠殺されるために引きずられて行く牛になったような気分で、虚ろな目をして列に並ぶ。今年も、あと2日で、もっとも嫌いな年中行事がやってくる……。