Organic Farm Kenya

 ケーブルテレビの番組を見ていると、化粧品や健康食品のCMによく出会う。そして、「自然素材」であるから「安全」であり、したがって「安心」して使うことができる、という意味のフレーズをよく耳にする。しかし、このようなフレーズを耳にするたびに、私は、強烈な違和感に襲われる。「この商品は自然素材から作られている」「したがって、安全である」「だから、安心して使うことができる」などという主張は、視聴者を愚弄するものなのではないか、このような主張を真に受けて商品を購入する客などいるわけがない、と私は信じていたのだが、私のこの見込みは、事実には反しているらしく、「自然由来の成分」などという文句には、それなりの集客効果があるようである。

 もちろん、自然素材なら何でも安全であるというわけではない。むしろ、事実は反対なのではないかと私は考えている。

自然素材については、成分や機序が完全には解明されていない

 自然由来の成分と言われているもののうち、何十年、いや、何百年ものあいだ、ある用途で使われ続け、その結果、特定の場面で使われるかぎり危険はないことが証明されているものがある。一部の化粧水に使われているキュウリやヘチマがこれに当たる。これらはいずれも、何百年ものあいだ使われ続け――効果はともかく――少なくとも、皮膚に触れても害がないことがわかっているのである。これらは、(なぜ害がないのか、機序はよくわからない場合もあるが、少なくとも、)長期にわたる人体実験によって安全が確認されている素材である。

 この観点から化粧品の安全を評価するなら、発売から相当な時間が経過している化粧品の方が新商品よりも好ましいことになる。古くからあり、今でも販売されている化粧品というのは、長期間にわたり大量に使用され、しかし、目立った問題が報告されていないから、まだ店頭に並んでいるのである。化粧品に安全を求めるなら、成分が自然由来であるかどうかよりも、昔から使われていたかどうかに注意すべきであろう。

 そもそも、化粧品の素材として新しく使われるようになった物質が「自然由来」や「天然」である場合、その化学的な組成は必ずしも100%明らかではないし、まして、皮膚につけたときにどのような影響を与えるのか、その作用機序が確認されていない場合も少なくない。化粧品の場合、発売前に、メーカーが安全を確認するために長期間にわたりモニターを使って影響を追跡するなど普通にはありえぬことであり、したがって、何年ものあいだ、毎日使っても大丈夫であるのかどうか、有害な作用はないのか、完全には分かっていないと考えるのが自然である。自分が実験台になる覚悟があるのなら、自然由来の成分を含む新商品を使ってもかまわない。しかし、安全や安心を買うのなら、「自然素材」の「新商品」というのは、優先的に避けるべきものであるに違いない。

 むしろ、この点に関しては、人工的な素材の方がはるかにすぐれていると言うことができる。というのも、人工的に合成された素材の場合、成分は完全に解明されており、また、作用機序についても、天然由来のものよりもおおむね単純であるから、ある程度はわかっているのが普通である。

 たとえば、化粧品に防腐剤として添加されることの多いパラベンは、相対的に安全――100%安全などということは、いかなる物質についてもありえない――が証明されている人工的な素材の1つである。少なくとも、パラベンを用いないことが原因で化粧品が腐敗して発生する害よりも、パラベンを添加することによる害の方が明らかに小さいことは、すでにいろいろな観点から確認されているはずである。

ゴキブリだって自然素材

 化粧品の場合、素材が自然由来であろうと人工的なものであろうと、人間の皮膚にとって「異物」であることに違いはない。だから、どのような化粧品であっても、何らかの意味において皮膚にとって有害である。100年前、200年前に使われていた化粧品とくらべ、現在の化粧品の方が身体に及ぶ悪影響が格段に小さくなっていることは確かであるけども、完全に無害ということはない。

 そもそも、自然素材と言っても、いろいろなものがある。動物を素材とするものもあれば、植物を素材とするもの、あるいは、正体不明の昆虫や微生物を素材とするものもある。「自然由来」「天然由来」「自然素材」などの言葉を目にしただけで飛びつくのは――婉曲な表現を使うとしても――「軽率」であると言わざるをえない。というのも、ゴキブリも自然素材だからである。

 ゴキブリが自然素材であるというのは、まぎれもない事実である。「自然素材」が好きな人は、ゴキブリ由来の成分が配合された化粧品が発売されるとき、「天然由来」であるという理由でこれを使ってみる気になるかどうか、胸に手を当ててよく考えてみるべきであろう。たしかにゴキブリ由来の天然成分を化粧品メーカーが使用する可能性は、かぎりなくゼロに近い。少なくとも、CMで「ゴキブリから抽出した天然成分が配合されています」「驚異の生命力の源が皮膚を若返らせる」などと宣言するはずはない。

 ただ、実際に化粧品に使われている天然成分なるものが何から取り出されているのか、CMで素姓を知り、その上で、想像力を働かせてみると、私など、どうも気持ちのよくないものを感じることが少なくない。むしろ、成分も機序も明らかな人工的な成分から合成された化粧品を使う方が、安全であり、安心であるような気がするのだが……。しかし、私は女性ではないから、この問題については、あまり自信がない。