St. Thomas Public Library- Official Opening preview, 1974

 一昨日、次のような記事を見つけた。

給付型奨学金、月2~4万円 18年度から

 文部科学省は、現在の高校2年生、つまり、2018年4月以降に大学に入学する者を対象とする給付型奨学金の支給を決めたようである。給付型奨学金というのは、返済を必要としないタイプの奨学金であり、国庫からの一方的な持ち出しとなる。

 たしかに、大学生に対して学費を補助することは、それ自体としては、決して後回しにしてよい課題ではない。むしろ、対策の時期はあまりにも遅く、しかも、規模はあまりにも小さいように思われる。(新たに予算に計上される210億円など、高齢者の医療費とはケタが2つ違う。)

 しかし、私は、この制度には反対である。

 この問題については、以前、次のような記事を書いたことがある。


給付型奨学金はどのように配分されるべきか : アド・ホックな倫理学

昨日、次のような記事を見つけた。高校成績「4」以上→月3万円 給付型奨学金の自民案:朝日新聞デジタル 現在の日本では、大学生を対象とする奨学金のほぼすべてが貸与型、つまり、返済を必要とするタイプの奨学金である。これに対し、外国、特に他の先進国では、奨学



上の記事で強調したことであるが、この制度には、少なくとも

    1. 評定平均を基準として
    2. 高等学校の卒業生を対象に
    3. 現金で支給する

という3つの点において深刻な欠陥が認められる。特に、第3の問題点を放置したまま奨学金を支給した場合、新たに予算として計上された210億円は、「カネのない世帯に学資を配った」という政府の単なるアリバイ作りの材料に終わってしまうであろう。

 そもそも、1つの高校について1人を選び、この生徒に1ヶ月に4万円を支給するくらいで格差や貧困が解消するはずはないし、たとえ4万円が大学生の手もとに届いたとしても、現金で支給されれば、生活費として優先的に使われ、学資に回ることはないであろう。

 奨学金は、勉強を支援するためのものであり、決して社会保険ではない。税金が原資となる以上、奨学金は勉強のために使われるべきであり、食品や携帯電話を買うために奨学金が使われてはならない。奨学金は、現金ではなく、「教育バウチャー」――教育サービスに限定したクーポン――の形で支給すべきであると私が考える理由である。実際、文部科学省では、教育バウチャーの検討が進められているようであり、この給付型奨学金に限定して試験的に導入してもよいのではないかと私自身はひそかに考えている。

教育バウチャーに関する研究会 教育バウチャーに関する検討状況について 1.主な論点及び意見−文部科学省

 奨学金を教育バウチャーとして支給することにより、サービスを提供する側あいだで競争が生まれ、学生に対する研究支援の市場の拡大と質の向上も促されるはずである。この分野の市場規模は、現在では、学生の数に反し、驚くほど小さい。それは、大学自身が片手間で提供するサービスにより、この分野の需要がほぼすべて吸収されてしまっているからである。しかし、冷静に考えるなら、これは異常な事態である。

 奨学金を現金で支給すると、生活扶助と区別がつかなくなる。この制度を続けていると、いずれ、「奨学金をもらえないと生活が成り立たない」などという見当はずれの声がどこかから上がり、そして、この声に応えるため、受給者の選定が単なる「貧乏くらべ」になって行く……、このようなことにならなければよいと心から願っている。