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昭和の時代には、郵便番号にはあまり意味がなかった

 私は、子どものころ、郵便物のオモテになぜ郵便番号を書かなければならないのかわからなかった。

 郵便物のオモテには宛先の住所が書かれていないはずはなく、この住所にもとづいて人間が目視で郵便物を振り分けるのだから、郵便番号など必要ないはずであった。

 だから、私は、ながいあいだ、郵便番号を書かずに封書やはがきを出していた。

 また、縦長の封書の表面の上部に算用数字が並ぶのは、あまり美的な図ではない。私は、郵便番号を書いて封書やはがきのオモテを汚すことにも抵抗を感じていた。

 そもそも、郵便番号を記入することは法律で定められた義務ではなく、郵便事業の効率化への任意の協力にすぎないから、現在でも、郵便番号が嫌なら、書かなくてもかまわない。もちろん、郵便番号が記されていないという理由で郵便物が配達されないなどということはないのである。

郵便番号が7桁になってから、メリットを感じられるようになった

 しかし、その後、1998年になって、郵便番号がそれまでの3桁から7桁に増えた。これは、個人にも社会にも大きなコストを強いる変更であった。住所録から看板まで、郵便番号を書き替えなければならなかった。宛先の住所に7桁の数字が加わることになった。当然、その分、書き間違いが増えた。

 しかし、当時の郵政省は、郵便番号の7桁化に対する抵抗をやわらげ、7桁の郵便番号の使用を促進するため、「7桁の郵便番号が正しく記入されていれば、郵便物の宛先の住所の一部を省略することができる」点をメリットとして大いに宣伝した。

 すでに1968年に3桁の郵便番号が制定されたとき、郵便番号を記入することにより、宛先の都道府県を省略し、さらに、政令指定都市の場合は、市名まで省略することが可能であるということになっていた。すなわち、「A県B市C区D町E-F-G」という宛先の場合、郵便番号を使用すれば、「A県B市」は郵便番号によってこれを代えることができるのである。

 さらに、1998年、郵便番号が7桁になるにあたり、今度は、宛先のうち、町名より下だけを書けばよいということになった。7桁の郵便番号が「A県B市C区」の代りになるということである。

 そして、私は、これに飛びついた。

 「A県B市」を書かなくてもよい、と言われても、その代わりに郵便番号3ケタを封書やはがきに書く気にはならない。しかし、7桁の数字を書くことで「A県B市C区」をすべて省略することができるなら、7桁の郵便番号を使うことにはメリットがある。

 そこで、郵便番号が7桁になった1998年、私は、パソコンで管理していた住所録から、町名より上の部分をすべて削除し、それ以来、差出人の住所を含め、封書やはがきのオモテに「A県B市C区」を書くのをやめた。実際、手書きの場合、「A県B市C区」をすべて書くか、7桁の数字を書くか、この違いはかなり大きいように思われる。(なお、大抵の場合、郵便番号の下4桁が町名に対応しているから、町名を書かなくても届かないわけではないかも知れないのだが、日本郵便は、町名を省略しないよう求めている。)

宅急便の伝票に郵便番号と住所の全体の両方を書かせられるのはおかしい

 しかし、私は、郵便番号が7桁になってから、1つのあまり好ましくない変化に気づいた。それは、ヤマト運輸の宅急便の伝票の形式が変更されたことである。

 かつて、宅急便の伝票には、郵便番号を記入する欄がなかった。当然、宅急便で荷物を送るときには、宛先の住所の全部を伝票に手で記入していた。都道府県名から始まる住所のすべてを記入するのは、宅急便に関しては当然の手間であった。

 ところが、郵便番号が7桁になってしばらくしてから、宅急便の伝票に郵便番号を記入する欄が作られ、そこに郵便番号を実際に記入するよう求められるようになった。しかも、郵便局は、宛先の郵便番号がオモテに記されていない郵便物でも引き受けるが、宅急便の場合、コンビニも営業所も、こちらが伝票に郵便番号を記入しないと荷物を引き受けない。

 ヤマト運輸は、郵便番号のシステムに便乗し、これをそのまま自社の業務に流用することにしたのであろう。しかし、これは、利用者によっては、大きな不利益をともなう変更となった。というのも、封書やはがきの場合、7桁の郵便番号を記入することで、「A県B市C区」を省略することができるのに、宅急便の伝票ではこの部分を省略することができないからである。省略した住所を記入した伝票を持ってコンビニや営業所に行くと、都道府県から始まるすべての住所を書くよう求められるのである。

 封書やはがきの場合、宛先を印刷してしまうことが多いけれども、個人が宅急便を送る場合、伝票は基本的に手書きである。それだけに、伝票に郵便番号7桁を書き、かつ、都道府県から始まる住所の全体を省略せず書くのは、利用者にとって大きな負担となる。

 私は、ヤマト運輸が郵便番号システムに便乗し、これを自社のサービスに流用することについて苦情を言うつもりはない。しかし、伝票の記入に関し、利用者に余計な負担を強いることには小さな不満を持っている。

 ヤマト運輸は、誤配や遅配が少なく、全体として日本郵便よりもはるかにすぐれていると私は思っているけれども、それだけに、日本郵便が利用者に許容している宛先の省略が宅急便では認められないというのは、私にはどうしても理解することができないのである。