cooking

 昨日、地下鉄副都心線に乗り、ドアの上に設置されている液晶ディスプレイ(LCD)に映る動画の広告をボンヤリと眺めていたとき、強い違和感を覚えた。

 私が見たのは、次の動画である。

 この動画では、専業主婦と思われる女性が外出し、知人とどこかで会う。そして、この女性は、外出先で、小学生の子どもの居場所をスマホで把握し、その後、子どもを駅で迎えて一緒に帰宅し、帰宅したあと、宅配で届いた食料品を調理して家族で食事する。

 ここで紹介されているのは、動画の説明によれば、

イッツコムの「インテリジェント ホーム」、

東急セキュリティの「エキッズ」、

東急ベルの「ホーム・コンビニエンスサービス」、

東急パワーサプライの「東急でんき」

の4つのサービスであるらしい。

 私は、この動画で紹介されているサービスに何か不満を持っているわけではない。(そもそも、東急線沿線の住民ではないから、副都心線に乗り、動画を見るまで、東急電鉄にこのようなサービスがあることすら知らなかった。)

 私に違和感を与えたのは、この動画の最後の方、47秒あたりに登場する男性である。この男性は、「おなかすいちゃったね」という一見無邪気なセリフとともに、子どもと一緒にソファーに腰をかけてテレビを見ている。つまり、この男性の妻が食事の用意をするのを待っているわけである。

 この場面を見て、私の心に最初に浮かんだのは、「なぜこの男は手伝わないんだ?」という疑問であり、次に心に浮かんだのは、「なぜ子どもに手伝わせないんだ?」であった。何か別の用事を片づけているのならともかく、(もちろん、たとえば子どもの相手をすることがそれ自体として用事と見なされているのかも知れないが、)手が空いているのなら、ただテレビを見ながら待っているのではなく、男性も子どもも、何かを手伝うべきであろうと私は考えたのである。

 この動画ばかりではない。家族で食事する短い場面を含む(住宅関係のサービスに関する)CMでは、女性が食事を準備し、その夫はリビングルームらしき空間のソファーに坐っている映像をよく見かける。しかし、女性は料理し、男性はソファーに坐ってこれを待つという映像は、性的役割分業を前提としなければ理解することのできないものであり、この意味において古色蒼然とした印象を与えるものである。

 もちろん、性的役割分業が何もかも悪いわけではないであろう。それでも、家事に関するかぎり、これを無邪気に肯定するような映像は、現在では、現実にも常識にも理想にも、もはや必ずしも合致するものではなく、反対に、少なくとも表向きは、性的役割分業に対する否定的な見解の方が支配的であることは確かである。

 したがって、上のようなCMに食事の用意をする場面を含めるのなら、男女が――場合によっては子どもも一緒に――家事を行う映像の方が自然であり、また、このような映像が繰り返し流されることにより、CMは、これを見る者たちに対し新しい生活の形を示すことにより、「教化的」「啓発的」な仕方で影響を与えることになるに違いない。