江戸っ子には「京都好き」が多い。私も京都は大好きである。
京都のものなら何でも好き、というわけではないが、それでも、好きなものはいろいろある。
ただ、東京生まれ東京育ちの人間から見た京都は、他の背景を持つ人々の目に映る京都とはいくらか異なる。
日本人の多くにとって、京都は、自分が住む街よりも大きな都会であろう。これに対し、江戸っ子から見た京都は、少なくとも規模の点では、自分の住む街の10分の1しかない地方都市である。江戸っ子の注意を惹く京都には、おのずからある意味における「偏り」が生まれることになるはずである。
そこで、私自身が「京都」と聞いてすぐに思い浮かべるものをいくつか挙げてみることにする。
京都の中では観光客が相対的に少ない
大規模な植物園は、東京にもないわけではないが、私は、あまり行かない。
だから、京都で時間があるときには、京都府立植物園を訪れることが多い。
京都よりも小さな街から京都に来る人は、この植物園のような「作り込まれた自然」には魅力を感じないのではないかと思う。そのせいなのかどうかわからないが、植物園には――おそらく桜の季節を除き――観光客は必ずしも多くはない。
敷地が広いということもあるのであろう、この植物園が、全体としては人口密度の低い観光スポットであることは確かである。
同じ緑地の中でも、人口密度は京都御苑や下鴨神社よりも格段に低いはずである。特に、植物園に立ち入るには、わずかであるとは言え、入場料が必要である上に、園内へのペットの持ち込みが禁止されているから、散歩中の犬から吠えられたり飛びつかれたりする危険がなく、安全に散歩する(?)ことが可能である。これもまた、少なくとも私にとっては、植物園を訪れるメリットである。
南側のゲートから賀茂川に直に出られる
植物園は、開園前からこの場所にあった原生林を取り込む形で作られている。したがって、園内に原生林と一緒に取り込まれた半木(なからぎ)神社の周囲を中心に、いかにも古そうな林を見ることができる。これはこれで落ち着く空間ではある。
ただ、原生林を取り込んで作られた植物園なら、東京にもある。それどころか、人口1人当たりの公園緑地の割合を単純に比較するなら、京都よりも東京の方が多いのである。(京都市が3.1平方メートル、東京都が5.76平方メートル。)
それでも、私が京都府立植物園に行くのは、これが賀茂川に隣接しているからである。
私自身は、植物園を訪れるときには、地下鉄で北山駅まで行く。(時間によっては、北山通り沿いに並ぶ飲食店で一休みしたあと、)北山通りに面したゲート(北山門)から入って南側のゲート(これが正門に当たるらしい)へ抜けることにしている。(反対でもかまわないが、その場合には、賀茂川門から出ることになる。)
植物園は、敷地の西側を賀茂川によって区切られている。(この間の賀茂川沿いの道が「半木(なからぎ)の道」である。)したがって、南側のゲートを出ると、すぐ右に賀茂川の土手があり、天気がよければ、この土手を超えて川原に出て、賀茂川沿いをしばらく歩く。東京の場合、都心を流れる川の大半は暗渠になっており、広い河川敷がないばかりではなく、川を見る機会すらほとんどない。だから、賀茂川(鴨川)沿いを歩くのは、東京の人間にとっては、特別に気持ちがよい体験になるのである。